
「望むことと生きることは別々だから、望みが叶わなくても、意気消沈するなかれです。」
これは、渡哲也が演じた『浮浪雲(はぐれぐも)』のなかのセリフです。昨日、倉本聰さんが亡くなったというニュースを聞いて、『浮浪雲』のことを思い出し、ネットで検索していて、この言葉に行き当たりました。
『北の国から』や『前略おふくろ様』など、倉本作品はほとんどリアルタイムで観てきました。どれも深く感銘を受けましたが、一番心に残っているのは、ひょっとすると『浮浪雲』ではなかったか、と思い返しています。
いつも上機嫌に遊び歩いている、渡哲也演じる「雲」が、大事な局面になると、息子の新之助に諭すように言葉を発します。その言葉のひとつひとつが重たい。
それでいて、まったく説教くさくはなく、こちらの身構えをすり抜けて、いつの間にか心のなかに入ってくるのです。
『浮浪雲』の名言として、「人生で一番大切なことは、機嫌がいいこと」という言葉も残っています。
思うようにならないことに出会うと、人はすぐに希望を持とうとします。けれども、望んだことが叶うことと、生きていくこととは別のことなのです。叶わないからといって、うつむく必要はない。冒頭の言葉は、そんなふうに、力を抜いて前を向け、と呼びかけているようです。
そういえば、このドラマが放送されていた頃、思春期の袋小路にいた私は、いつも暗い顔をして下を向いていました。だから、あの言葉が心に響いたのだと思います。
倉本聰が手掛けた大河ドラマ『勝海舟』は、主演の渡哲也が病気で降板し、その後、倉本自身も現場とのトラブルから降板することになりました。倉本は後に、この出来事が自分にとって大きな転機になったと語っています。
『浮浪雲』は、その渡哲也を再び迎えて作られた作品でした。
だからなのでしょうか、あのドラマで「雲」が言っていた言葉は、思うようにならないことを抱えながら、それでも機嫌よく生きていこうとする人の言葉でした。
そして、それはひょっとすると、倉本聰自身が、もう一度前を向こうとしていた時の言葉でもあったのかもしれません。





